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【1/2】債務整理とソーシャルワーク(実践編)|レポート

「債務整理というのは、本当に定型処理で済む事件か?」

このテーマは、多くの弁護士の先生が疑問を抱きつつも解決できていない重要なテーマのひとつではないでしょうか。今回、このテーマのひとつの解として、先進的な活動をされている先生お2人の講演が、弁護士とソーシャルワーカーの協働を考える会の主催で開催されました。この記事は、その内容のレポートです。

この会の講師である鈴木愛子先生は、ご自身のブログで「自己破産を申立て、免責を得る」という人生の中で、何度も使えない権利を、本当の意味での経済生活の再生のために活用するには誰が、どこまで、どうケアし、そのコストはどう負担すべきなのか?といったことを記し、問題提起されています。

破産を申し立てる人は、そもそも金銭的に余裕がないから破産申立てをするのであり、どのように解決すべきかは、非常に悩ましい問題という点には本当に共感します。

 

これまでの議論や前提の共有

はじめに、これまでの議論の経緯や問題意識、多くの場合、依頼人が抱える問題へのソーシャルワーク的アプローチができていないことなどを弁護士とソーシャルワーカーの協働を考える会の平林先生から説明がありました。

平林先生:そもそも、破産法第1条には「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」との記載があり、再生の機会を図ることが目的と明記されています。しかし、実情としての法的解決方法は今ある、借金をチャラにして終わってしまうという側面がぬぐい切れません。

これは、ダイエットに例えると、脂肪吸引を対症療法として行っているに過ぎないと評価することができます。根本的な解決方法である生活習慣の指導、つまりソーシャルワークがなされなければ、根本的な解決はできないのではないか?ということです。

多くの場合、依頼人が抱える問題は法的対応だけでは解決しません。一方で、根本的な解決方法である生活習慣の指導、この点については弁護士の仕事ではないのではないかといった声もあるというのが現状です。

今回は、申立代理人の立場からと、破産管財人の立場、それぞれの視点で、先進的な実務活動をされているお2人の先生にご講演いただきます。

本日、皆さんに知っておいていただきたいことがいくつかありますが、そのうちの1つが、そもそも破産手続きにおいて、「免責」が得られないケースは、思っているより少ないということです。

では、ここからは申立代理人側として鎌倉法律事務所の山田英男先生に、お話いただきます。

 

「自己破産申立」とソーシャルワーク

山田先生: 私は、弁護士登録から10年ほど。これまで申立人側で約60件、管財人の立場で約30件ほどの経験があります(2019年2月現在)。

弁護士が自己破産で目指すことは、できるだけ早く免責を得る(借金をチャラにする)ことです。この点だけを考えると、東京地裁で20万円の予納金が必要になる管財事件よりも、簡便で早い同時廃止という手続きを目指す方がいいようにも思えます。

しかし免責を得るだけでは経済的更生が為されないというケースが多々あると思っています。

破産の原因には、家庭の問題や貧困、さらには精神障害や知的障害依存症など様々な原因が潜んでいます。ギャンブル依存、家族から搾取されているケース、夫がお金を入れないというケースもあります。

自己破産手続きを通して、借金を無くすというだけでは経済的破綻の根本原因の解決にならないケースが多いのです。従って、自己破産申し立てにおいてはソーシャルワークの必要性があると考えています。

 

自己破産事件を受任する場合の注意点「初回相談の重要性」

債務整理、自己破産事件を受任する場合、初回相談の「印象」が重要です。

破産者の多くは隠したいと考えています。弁護士は破産者の状況を正確に把握しておく必要がありますが、破産者にとって弁護士が怖い存在になってしまうと事実を隠されてしまい、申立後に隠していた事実が発覚するケースがあり、この場合大きな問題になりがちです。

だからこそ、なんでも話してくれる関係性をつくるために、「何を話しても怒らない人」という印象を与えるようにしています。

この前提の上で

  • 出来る限り事前に情報を入手すること(支援者による相談役のケースなど)
  • 請求書、督促状など関連する書類は可能な限り準備してもらうこと
  • 債務の内容支払い停止までの事情も可能な限り聴取すること
  • 傷害疾病などの有無と程度、過去の債務整理履歴、収入、家庭環境の聴取

に、特に注意をして、ヒアリングを行います。

 

|1.自己破産事件を受任する場合の注意点「受任直後①」

受任直後に重視するポイントは2つ。債権者一覧表の作成と、支払い不能に至った経緯をストーリー仕立てで作成することです。

債権者一覧表の作成時の注意点

  • 借入開始時期⇒特定時期に集中していないか(その時期に何があった?)
  • 支払停止時期⇒時期にズレがないか(偏頗弁済じゃない?)
  • 使途⇒特定の使途に使いすぎていないか(浪費、依存症の疑い)※「生活費」、「返済」は更に突っ込んで聞く。生活費が不足しているということは、その前提にある事情が根本原因です。従って、その原因が何かまで聞き取る必要があります。
  • 債権者名⇒金融機関、クレサラ以外の業者に注目(ex.通信費が高額)※ネットの費用や通信費が多い場合は、ネットゲームなどに入れ込んでいる可能性有り。
  • 債務額⇒収入に比して金額が多すぎないか

支払不能に至る経緯をストーリー仕立てで作成

  • 当時の収入・家計状況、債権者一覧表との整合性を慎重に検討。原因を可能な限り具体的に見立てます。

受任直後の段階で、この2つをやることで、破産に至った原因を可能な限り見立てます。この見立てが外れたり、緩い場合は、のちに苦労をすることになりがちなので、この点はしつこいくらいにやった方がいいでしょう。

個人的によく見かける障害・疾病等別の傾向は次の3つです。

  • 依存症 ⇒特定のことへの過大な支出が慢性的に継続
  • 双極性障害、統合失調症等 ⇒特定の時期に過大な支出が集中、不合理な支出が目立つ
  • 知的障害、発達障害(ADHD)等 ⇒日常的に収入と支出のバランスが大きく崩れている

 

|2.自己破産事件を受任する場合の注意点「受任直後②」

受任直後に実施するケアについても、大きく分けると2点です。

収支管理に問題を感じる場合

  • 家計簿の指導

紙のものの場合、家計簿を作成することが苦手なケースが多い。その場合は、スマホのアプリがおススメです。若い方の場合、アプリにするだけで入力が進むケースが多いです。

支払不能の原因がケアされていない場合

  • 障害、疾病が原因であると考えられる場合  ⇒医療、行政、支援機関等につなぐ
  • 貧困が原因であると考えられる場合 ⇒生活保護の申請、生活困窮者自立支援事業の利用、 障害年金受給の支援等まで実施します

 

|3.自己破産事件を受任する場合の注意点「受任直後③」

医療・支援等により問題が解消されていない場合

  • 解消されていない原因を追究する※医療機関に繋がってはいるものの医師を怖がってしまっているケースがある。また収支管理ができない場合は社共へつなぐ
  • 必要に応じて、別の医療や支援機関等につないだり、支援の追加を検討

原因の解決を優先させるべき場合

  • 家庭の問題(家族からの搾取、虐待等)が原因となっている場合は、その解決を優先すべき※悠長に債務整理をしている場合ではないケースも散見されるため、先にそちらの解決を受任したり、サポート機関へつなぐことで最短の方法で解決できるようにする必要があります。
  • 依存症や精神障害が深刻な場合も、治療等を優先

なお、自己破産を受任した後に、他の問題の解決をするという方法はおススメできません。受任通知を送ってから破産申立てまでの時間は、破産申立てのため調査のための時間だと考えます。また、自己破産受任後から申し立てまでに、時間がかかりすぎる場合、債権者から懲戒処分の申立をされるケースもあるようですので、先に問題を解決してから来てもらうようにするなどの対応をする必要があります。

 

|4.自己破産事件を受任する場合の注意点「申立準備段階①」

私は、原則として、受任から1~3か月以内に申し立てるようにしており、2か月以内に申し立てることを目標としています。

  • 債権者から送られた債権届は、到着後すぐに内容を確認※クレジットカードの利用明細も必ず取る。これを見ることで本当の原因がわかることが多い。
  • 通帳の履歴(申立時に必要なのは2年分だが、可能な限り遡る)を詳細にチェック
  • 受任直後に作成した支払不能の経緯が崩れたら、再度作り直す※本人が自分のことを客観的に把握できていないことも多い。
  • この時点で、要支援が発覚することも(依存症等)

実際に、あった事案では、離婚の問題と家庭の問題が原因と聞いていた債務整理案件で、生活保護の受給を開始していたことから、既に根本原因の解決は済んでいると思っていた事案でも、クレジットカードの利用明細を確認すると占いサイトにはまってしまっており、根本原因の解決ができていないことが判明したケースもありました。

クレジットカード明細や銀行取引履歴の確認は、事実を確認するためにも重要です(事案の内容は、多少変更しています)。

 

|5.自己破産事件を受任する場合の注意点「申立準備段階②」

  • 資料の準備ができない方(うつ病、ADHD等)⇒必要に応じてアウトリーチ(ご自宅への訪問など)※ケースワーカー等支援者の同行が必要なことも
  • 受任後の新たな借入(※)が発覚した場合・・・(涙)⇒原因を究明して必ず潰す⇒決して怒らない(やんわりと、「次はないと伝える」)※免責不許可事由となりうる(破産法252条1項5号)

 

|6.「申立」(免責不許可になる?)

免責不許可になるケースは、そんなに多くはありません。そもそも、精神・知的障害者、依存症者等には免責不許可事由(破産法252条1項各号)があることが多いです。

具体的にいうと

  • 浪費(4号)
  • ギャンブル(4号)
  • ショッピング枠の現金化(2号)
  • うそをついて借入(5号)

etc・・・。

しかし、申立時点で存在した事由で免責不許可になることはほとんどありません。大半が裁量免責となります。

以前に私が担当した事案でも、ショッピング枠の現金化(新幹線チケットを現金化してしまっていたケース)していた場合でも背景を丁寧に説明することで、裁量免責となったケースがありました。※免責97.4%、免責不許可0.16%、取下げ等2.3%(平成23年)

 

|7.「申立」(管財事件になる?①)

  • 免責不許可事由があると、管財事件になる可能性が高い(免責調査型管財)
  • 従来、管財相当の事案を同時廃止に持ち込むのが弁護士の「職人芸」と言われていた ⇒その実態は隠○工作というケースも…。
  • 以前は、裁判所もチェックが甘く、管財事件にしたがら なかった(平成15年:申立件数約25万件(※1)、管財率10%未満)⇒しかし時代は、手続の厳格化へ(平成27年:申立件数約7万件、管財率約40%)

かつて、25万件(※1)への対応をしていた裁判所は、現在、7万件の処理をすれば足りるという状況ですのでしっかり内容をチェックします。

(※1)申立て件数等

  • 平成15年:申立件数約25万件,管財率10%未満
  • 平成27年:申立件数約7万件,管財率約40%
    平成28年7月2日 全国倒産処理弁護士ネットワーク、第33回関東地区研修会における横浜地方裁判所第3民事部の有賀直樹判事の講演資料より

※免責97.4%、免責不許可0.16%、取下げ等2.3%(平成23年)→「破産実務Q&A200問」(全国倒産処理弁護士ネットワーク編・きんざい)P.399より

 

|8.申立(管財事件になる?②)

破産申立てをするにあたって隠蔽は論外です。中途半端な事実の希釈化をすることも疑惑を呼びます。書記官は隅から隅まで申立書をチェックします。

内容に不整合な点があれば、細かく突っ込んできますので、その内容に明確に答えらない場合は、迷わずに管財事件にします。

私が、おススメする方法はオープンリーチ。不都合なことも含めて全てさらすことが重要だと思っています。各裁判所には、定型の書式がありますが、それとは別途で報告書を作成しています。

この報告書には、

  • 免責不許可事由の内容(特に、その免責不許可事由が生じたことによって、どのくらいの負債が生じたか?)
  • 原因に対するアプローチとその成果
  • 取引履歴など客観的事実を基にした原因の分析
  • ソーシャルワークの成果
  • 現在の生活状況
  • 本人の認識

などを徹底的に客観的に詳細に記載します。(あるケースでは5頁分作成しました。)

ちなみに、原因に対して解決へのアプローチをしないままオープンリーチをすることは逆効果で、結果として、管財事件になるでしょう。

弁護士はどう考え、どう指導したか?本人は、どう思い、どう改善をしたか?をきちんと説明することが必要です。これにより、あえて時間とお金をかけて破産管財人をつけて対応することは不要と、裁判所へ印象をつけることが大切です。

これまでに述べてきたようなことを丁寧に実施することで、実際に、浪費癖、双極性障害、過大な支出があり免責不許可事由に該当することが多く、免責観察型の管財事件になるであろうと思われる事案でも、同時廃止(集団免責審尋)という方法で、事件処理をした経験があります。

申立人としての経験、管財人としての経験、両方を通して、破産事件の原因への対するアプローチは申立人でないと難しいケースが多いと感じています。ぜひ、申立代理人の先生へは、根本原因へのアプローチも含め実施していただければと思います。

私のやっていることが、少しでも、参考になれば幸いです。

▼【2/2】に、続きます。

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